指導の要諦

はじめに

ここでは、戸山流居合道がどのような指導を行なっているのかについてお話したいと思います。

皆さんは武道という言葉を耳にして、どのような印象を持たれるでしょうか?

ある人にとって武道とはすべからく、道場では大声の挨拶を強制され、目上の人には絶対の服従を 要求されて、時には先輩や指導者から伝統の名のもとに強権的な指導がなされたりする、そんな荒々しい風景をイメージされるかもしれません。

戸山流居合道は、そのようなイメージとは基本的に異なります。 
そもそも居合道は日本刀を用いた護身の技術から発生していますので、居合に長けた人ほど静かで沈着としており、小さな所作にも気を遣います。

それは人への労わりや心使いにも通じ、静かな挨拶や態度は刀を持たずとも自然な形としてその人 を語り、結果的に、そのような所作や振る舞いがその人を守っていることにつながります。

ここからわかるように、居合とは刀を持たずとも護身に通じる道となり、それは猛々しく荒ぶる事とは 次元を異とするものです。


初等段階における指導(初段まで)

初心者への指導の基本は、着装指導(確実な着衣が出来ること)から始まり礼法指導がその中心と なります。

礼法は、刀礼(提刀姿勢から帯刀まで、脱刀から提刀姿勢まで)が確実に身に付く事を大事として おります。

昇段審査で、初段の審査では特に礼法に重点をおき技術レベルの高さよりも礼法のレベルに視点 を配しております。 

  初心者がいきなり真剣を持つ事はありません。少なくとも二段までは居合刀と呼ばれる模擬刀を用 いて稽古を行ないます。

礼法がある程度実践できるようになると、実際に刀の振り方について指導を行ないます。

刀の持ち方、体の動かし方、足の捌き、納刀など基礎刀法に基づいて正面斬り、袈裟(けさ)斬りなどを学びます。

はじめはゆっくり、大きく刀を振る事から始めます。

基礎刀法を理解すれば、次第に形(かた)の稽古へ移行します。 
基本居合とよばれる八本の形の習得を始めます。

初段を取得する頃になると、居合を概ね理解するレベルとなります。


中等段階における指導(二段から四段まで)

ここでは基本居合の充実を主眼において稽古を行ないます。
古流の 居合と比較すると形(かた) の数は少ないのですが、一つ一つの形 (かた)がどれも難しく、習熟するには長い年月が必要になります。

三段を取得した頃から、指導者の許可が下りると真剣を持って稽古をすることが出来るようになり ます。

また、試斬会(しざんかい)と呼ばれる「巻き藁(わら)の試し斬り」も真剣を持つことにより参加する事 が出来ます。

この試斬会は、あくまでも自ら刀法の確認の為に指導者の統制のもとに行なわれるもので、 興味本位で斬りまくるものではありません。

高等段階(五段以上)
 
この段階では指導されることよりも、指導する側の立場となる事が多くなります。指導者と成り得ても自ら律することを忘れると形(かた)は壊れていきますので、高段者といえども常に自己の練磨 は欠かせません。

それには奢(おご)ることなく他者の意見を謙虚に受け入れる人間性が技術の高さよりも要求されます。