子供達への居合道


居合道は、剣道を経験した者でなければ出来ないといった事や大人でも居合をするのは難しいというお話を良く耳にします。

私たちの戸山流居合道では、年齢や性別に関係なく意欲ある人であれば例え高齢者でも子供でも入門して頂いております。

「子供に刀を持たせるのは危険だ」との御忠告も良く頂きます。 保護者の立場で考えればもっともなご意見と思いますので良く拝聴させて頂いております。

私達が子供達に居合道を教えたいと思うのは、既に現代が大人でもたじろぐ様な多くの犯罪事件にひしめいている事実があるためです。

新聞を開けば陰惨な事件が活字を躍らせています。 テレビを見ればまるで当たり前の出来事のように淡々と事件を伝える様には驚愕さえ覚えるほどです。

学校現場に子供の安全を託すことが期待出来ないことも「池田小学校事件」を思い出せば、それが基本的に無理であるのは良くお分かりになる事でしょう。

この様に「危なくなった日本の話」を挙げればいとまなく挙げられますが、そんなことよりもどうすれば子供たちを守ることができるのかという点を私達は直視する必要があります。

「子供に居合を教えて、刀を日頃から持たせるのか」という問いも良く頂きます。居合道は道場にあっては刀を携えて稽古をしますが、その日頃の修練で得られる事は「護身の心得」と言えます。

自ら進んで挨拶をする事は人の和を育ませると同時に間合いを取る動作にもつながります。

人間関係というのは子供であろうと容赦なく存在する現実ですが、その中で相手から攻められることなくまた、相手を攻めることもない自立した関係を築くのには「間合いを取る」という古来から先人が培った技術が役に立ちます。

挨拶や返事をするという事は、今の子供たちにとって苦手なようですが実は対人関係にあって人に対する感度を高く持つことは最大の護身技術と言えます。

また居合の中で教えられる「目付け」は油断をせず行動する気配りに通じ、「残心」は結果に対する心配りに通じます。

単純なミスが人命を亡くす医療事故などの話を聞くと、大人でもこの「残心」の重要性は深く頷(うなず)けると思います。

日本に武道と呼ばれるものは居合道の他にも沢山ありますが、その派生はどれも「身を守る術」として生まれております。これらの多くが今でも日本の中に深く根差している事を思えば、いまこの時代に武道が役立たずして、いつ役立つのかという思いを持ち続けている次第です。

私達は、居合道を教えることで「自分の身は、自分で守ることができる子供」を一人でも多く育てたいと考えています。

子供の時に身に付けた「護身の心得」は、成長して大人になり日本社会の中にあっても、海外で活躍する人となっても常に守り続けてくれる「見えないお守り」になると信じております。

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文責: 戸山流居合道 福岡県連盟 広報 山口秀昭

出展: 野中日文 著「武道の礼儀作法」合気ニュース